【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
——これはますます、マリアに皇太子だと明かすタイミングが難しくなったな。
頭を抱えたくなるが、これほど皇太子を恐れているマリアに今すぐ正体を明かすわけにはいかない。まずはマリアを皇城に迎え入れ、誰もマリアに危害を加えないのだと安心させる必要がある。もちろん、ジルベルト自身も含めて。
——少なくとも数ヶ月はかかりそうだ。皇城に着くまでに早馬を遣って、フェルナンドにも伝えよう……秘密裏に、《《広く手を回す》》必要がある。
フェルナンドのしかつめらしい顔が歪むのを想像し、ジルベルトはやれやれと嘆息する。
一方でマリアは、戸惑いの中にもジルベルトの頼もしい言葉に一抹の安堵の気持ちを抱いていた。
ジルベルトはきっと大貴族か何かなのだろう。その立ち居振る舞いやジルベルトに対する周囲の態度を見ても、皇城内に於いてかなりの権力者であると伺える。
——ジルベルトに守ってもらいながら働けるなんて。今の私にとっては、この上なく有難いことだわ。どこにいたって死ぬときは死ぬのだし、生きるときは、生きるのだから。
マリアは——この三年ものあいだ、その名を偽って生きてきた。