【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ジルベルトに色目を使う美貌の女性を前にしても、こんな神妙な心持ちを(いだ)いたことは一度もなく。全く初めての感覚で、ジルベルト自身も驚いてしまう。

 ——俺の知る女は皆一様に外面ばかりを飾り立て、内に邪な(したた)かさを隠しながら弱々しく装う。強い者に(こび)を売ろうと、作り笑いを浮かべて俺の機嫌を取ろうとする者ばかりだ。
 マリアは、儚げに見えて内面は違っている。あの店で見せた凛とした強さには敬服したのだ。
 身寄りもなく一人きりで生き抜くための環境がそうさせたのだろうが、俺は奇しくもその強さに憧憬(しょうけい)の念を抱いてしまったのかも知れん。

 ジルベルトを助けようとした時も。
 傷口の応急処置をしたあと血まみれのまま王宮内に押し入り、宰相のロベルトに涙ながらに訴えかけたと聞く。

 ジルベルトは冷笑する。
 指先を少し切っただけで大騒ぎする後宮の女たちに、あれと同じことはできぬだろう——。
 
「君の気持ちは良く理解した。マリアが安心して皇城で過ごせるよう、俺が手を回して細心の注意を払おう。約束する」

 力強い言葉に、マリアがきょとんと目を丸くする。その言葉が強ければ強いほど、ジルベルトは自身の首を絞めつけるようなものだ。
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