【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 獅子宮殿の外廊は閑散としていて、マリアとフェルナンドの他に人の気配は感じられない。
 
 雨上がりの空から光が差しはじめている。外廊に沿って植えられた木々の、鮮やかな緑葉の上にぽたりと水滴が落ちた。
 フェルナンドの背中を見つめながら、その異様なまでの静けさがマリアの緊張を増長させる。

 片手で荷物を持ち、片手には仔猫のジルがおとなしく収まっている。中庭を囲む広々とした回廊を渡り、案内された先がこの浴室付きの部屋だ。


 ちゃぷん………


 白い浴槽に(あお)水面(みなも)がゆらゆらと輝き、マリアの心と身体を芯から温め、穏やかにする。

「……気持ちいい」

 —— ジルも一緒にお風呂に入れてあげれば良かった。好奇心旺盛なジルのことだから、今頃は広いお部屋をひとりで探検しているかもしれないわね?

 あたたかな湯の心地よさに、マリアが恍惚と目を閉じたとき。

「失礼いたします。あら、お召し物……こんなに汚れて? いったい何をどうすればこんなふうになるのかしら……」

 静寂を味わうマリアの耳に突然飛び込んできた声。慌てた拍子に湯船の中で足を滑らせ、ざぶんと頭から湯をかぶる。


「………誰……っ?!」
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