【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

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 日は高く昇り、白亜のガゼボに光を注ぐ。日が当たるところは眩しいほどだが、相反して光が届かぬ場所には暗い影を落とす。
 獅子宮殿の南庭に(しつら)えのあるガゼボは、緑の木々の波間に白々と浮かぶようだ。
 
 宮殿の外廊下を渡り、数人の侍従らが銀製の大きなカートを運ぶ。
 ジルベルトの傍に立ち、彼らを横目に見るフェルナンドは怪訝な面持ちを崩さない。

「下女を食事の席に招待するなど。後宮であなたからの誘いを待ち続ける姫たちが聞けば卒倒するでしょうね」

 ガゼボの低いテーブルの下では持て余してしまう長い足と腕を組み、ジルベルトは白いアイアン細工が繊細な椅子に悠々と座る。

「そういつまでも臍を曲げるな、フェルナンド。マリアはもう下女ではない。俺の大事な『お茶役』だ」

「どちらにせよ後宮の姫たちは納得しないでしょう。それに快眠が都合良く続くとも限りません。
 素性も知れぬ女を寝所に入れて寝首を搔かれでもしたら。噂になって広まれば皇太子の威信にも関わります」

「言われずともわかっている。そんなに心配なら、マリアの生まれ育ちと身辺でも調べれ上げれば良いだろう?
 何をしても埒があかなかった不眠が改善したのだ。今朝は日が昇るのを見過ごすまで眠ったのだからな」

 ——こうして目を閉じただけで、殺害された女性たちの断末魔の叫びが聞こえると言うのに。
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