【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 サロンの張り詰めた空気を感じ取った夫人が、パン、パン! と開手(ひらて)を打つ。

「あなたたち。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ? お座りなさい。せっかく殿下がサロンにいらして下さったのですから、楽しいお茶の席にいたしましょう! 殿下も召し上がってくださいませ。こちらの焼き菓子は、殿下の隣におりますロザンヌ王女がこしらえたのです」

 皇太子——ジルベルトがチラと見遣れば、栗色の髪をくるくる巻いて胸元に垂らしたまるで人形のような令嬢が、ぽ、と頬を染めて恥ずかしそうに(うつむ)いた。

「彼女はムスダン国の王女であるにも関わらず、後宮に入ってからは自らが進んで料理人の指導を受けていますのよ。もはや、一流のパティシエール並みの腕前にまで……」

「毒見はさせたのですか?」
 ジルベルトの一言が夫人の言葉を遮る。

「ああ……いえ。ですがこの菓子はこのように皆でいただいておりますゆえ、ご安心くださればよろしいかと」

「得体の知れぬ物は口にできません。ロザンヌ王女、あなたの父ムスダン国王は、亡きセルヴィウスと濃密に手を結んでいた王の一人だ。帝国に謀反を起こすかも知れぬ国の姫がこしらえた物を、俺に食べろと?」

 声を荒立てる訳でもなく。冷たく淡々と言い募るジルベルトの静かなる威圧——。
 巻き毛の令嬢の顔がみるみる青ざめてゆく。

「そんな、我がムスダン王国は、断じて謀反など……っ」
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