【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 まるで猛獣に睨まれたように緊張を露わにする令嬢たち。

「殿下がそのような事を平然とおっしゃるから、皆があなたを怖がるのです。『女嫌いの皇太子』など良からぬ噂を払拭するためにも……! いい加減、令嬢たちに心を開いてくださいませ」

 浅く皺の刻まれた夫人の目蓋の奥の、翡翠の瞳が凛とした意志を見せる。そして久しぶりに顔を見せたジルベルトを諭すように言うのだった。

「お心づもりをなさいますように。
 南部諸国併合記念式典の舞踏会では、殿下と踊るお相手を後宮の令嬢たちの中から選んでいただきます。随時入れ替わる後宮の令嬢たちの顔ぶれくらいは、殿下に知っておいていただかねばなりません。
 ちなみに前回、殿下が後宮にいらした時からすでに三名が入れ替わっておりますのよ?」

 ジルベルトが薄青い瞳を僅かに泳がせる。夫人はそれを見逃さない。

「さぁ、皆さん。あまり時間がありませんよ! 立ち上がって殿下に順にご挨拶を。何かお聞きしたい事があるならおっしゃいなさい。今なら、《《何なりと》》お答えくださるでしょう」

 ——ああ、ウンザリだ。

 肩を棒で突かれるような大公夫人の剣幕には辟易してしまう。今日のこの時間とて、決して足が進むものではなかった。

 頭を抱えたい衝動に駆られる皇太子の気持ちなど他所(よそ)に、気を取り直した令嬢たちが次々と自己紹介を披露し始める。
 以前から後宮にいる者は精一杯の質問を投げたりもした。

「あのう……ジルベルト殿下も、星祭りの『視察』に行かれるのでしょうか?」
「祭りの視察?」
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