【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 皇太子ジルベルトが礼服の肩から垂れるローブを颯爽とひるがえし、サロンの双扉をくぐる。
 令嬢たちは即座に椅子から立ち上がると、申し合わせたように皆が揃ってお辞儀をした。

「堅苦しい拝礼はいらぬ。顔を上げよ」

 良く通る艶やかな声がサロンに響いた。
 睥睨する碧い瞳。堂々とした足取りはその一歩一歩が威圧と威厳に満ちていて、ふわふわと華やいでいたサロンの空気を一変させるものだ。

 そのまま大公夫人のそばまで歩むと、皇太子を見上げる夫人の手を取り、背を曲げて軽くくちづける。

「ジルベルト皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
「ご無沙汰しています。アルフォンス大公夫人」

 重厚な漆黒の礼服の所為なのか、皇太子が纏う空気にさえ重量を感じる。
 見上げるほどに背高い体躯にも圧倒されてしまう皇太子の存在感……顔を上げた令嬢たちが、こっそりと甘い吐息を漏らした。

「本当にご無沙汰が過ぎますこと。ここにいる令嬢たちがあなたの来訪を首を長くして待ち侘びておりましたよ?」

 皇太子ジルベルトの耳元に、後宮(ここ)にいるはずのないフェルナンドの声が聞こえる——
『下女を食事の席に招待するなど。後宮であなたからの誘いを待ち詫びる姫たちが聞けば卒倒するでしょうね!』

「それは、申し訳ありません」

 睫毛を伏せ、大公夫人に向けて軽く額を下げる、が。
 その瞳に感情はなく、淡々と挨拶の義務を果たすようにしか見えない。

 令嬢たちは、こくりと息を呑む。

 長い睫毛を持ち上げた皇太子の面輪は見惚れるほどに美しい。
 けれど冷徹なアイスブルーの眼差しには一縷の柔らかさもなく、令嬢たちをただ傲岸不遜に見据えただけだった。

「殿下、わたくしの隣におかけくださいませ」

 大公夫人が促せば、夫人を一瞥した皇太子がうなづき、侍従が引いた椅子に腰を下ろす。
 皇太子の一挙一動も見逃さぬようにと目を凝らす令嬢たち。
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