【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「はい。帝都の星祭りです。皇城の警吏や騎士団、それに使用人まで順に『視察』に行くと聞いたものですから。殿下はどなたかと一緒に、その……お出かけにならないのかしら……と」
ジルベルトの温度を感じさせぬ声が微笑う。視察と銘打ってはいるが、ただの遊興だろう。
遊興に足を運ぶのに時間を割くくらいなら、執務書類を一枚でも多く仕上げた方がまだましだ。
「いや、皇太子が祭りの視察など必要ありませんよ。帝都の行事の管理や警備全般の事なら、優秀な帝都警吏らに任せているしね」
その返答を聞いた大公夫人の面輪がわずかに歪んだ。
——鈍感な殿下にはもう少し、女心というものを察して頂かねばなりませんわね。
「次はフォーン王国のリズロッテ王女です。殿下とはすでに面識がありますから、自己紹介は必要ありませんね。代わりに、こうして殿下に時々後宮に足を運んでいただく理由を説明できますか?」
突然に名前を呼ばれたリズロッテが驚いて目を丸くする。
「はっ、はい。存じております」
「今日から後宮入りをしたフィフィー侯爵令嬢に知っていただくためにも。そしてジルベルト殿下ご自身に再認識していただくためにも、今ここでおっしゃってみて? 殿下もよろしいですわね?」
「……ええ、勿論」
かく言うジルベルトはひどく罰の悪そうな顔をしている。
おもむろに立ち上がったリズロッテは胸を張り、姿勢を正した。