【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「皇太子殿下が後宮に足を運ばれるのには、二つの理由があります。
 一つは後宮の視察。皇城内にいる身分の高い他国の女性たちが、普段どんな様子で何をしていているのか。良からぬ企てをしていないか。ご自身の目で見て確かめていただくためです。もう一つは……その、」

 頬を染めて言い淀むリズロッテ。
 大公夫人が諌める。

「構いませんから、言ってごらんなさい」
「ジルベルト皇太子殿下に……お妃やご側妃の候補者を選んでいただくためです。
 ですから……っ、婚約が決まるなど特別な理由がない限り、後宮に住まう淑女はいつ殿下にお誘いやお声かけいただいても良いよう、皆が心づもりをしております」

 よりによって、ジルベルト殿下に向かってこんな事を言わされるなんて……!
 円卓に座る皆が心根でリズロッテを嘲笑(あざわら)っているだろう。
 誰よりも皇太子の誘いを待つのはリズロッテだと、皆が知っているはずだから。

 視界がぼやけて、円卓を挟んでリズロッテの正面に堂々と腕を組んで座る皇太子が、とても遠いところにいるように見える。


 —————シッ! お慎みなさい、リズロッテ様に聞こえてしまうわ。

 リズロッテの耳元に、朝食の席で耳にした友人たちの言葉が、まるで惨めな自分に追い討ちをかけるように反芻した。
 リズロッテは萎縮してしまう……これは幻聴か何かだろうか。

 —————なんとしても殿下のお目にとまりたくて、中小国との縁談は全てお断りになっているそうよ。そこまでするなんて、ちょっとあさましいですわよね!

 —————だから十八歳の成人を目前にしても、相変わらずのいかずごけで後宮に残っていらっしゃるのですね?!
< 206 / 580 >

この作品をシェア

pagetop