【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「リズロッテ王女、どうかしましたか?」
大公夫人の言葉で、は、と我に帰る。
「お優しい皇太子殿下に……畏れながらお願いがあります。わたくしと……星祭りをご一緒くださいませんか……?」
《《命がけ》》だと、言ってもよかった。
誰に何を言われようと、どんな陰口を叩かれようと構うものかと思った。
フォーン王国でリズロッテの報告を待つ父と母の、不安に満ちた顔が目に浮かぶ——帝国皇太子と結婚して支援を受けることが、唯一、王国の財政難を救う手立てだなのだと。
リズロッテにとって、皇太子に近づける最後のチャンスかも知れなかった。
リズロッテの《《祖国を救う》》、最後の希望になるかも知れなかった。
けれど——。
皇太子は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに真顔に戻ってしまう。そして冷徹に言い放った。
「すまないが。いくら治安の良さに定評のある帝都とはいえ、祭りの喧騒の中に一国の王女をお連れする事はできません。帝国が預かる王女の身に何かあっては、フォーン国王に申し開きが立たないのだから」
ぐ、と奥歯を噛み締めたリズロッテの唇に、薄らと血が滲む。
「リズロッテ王女……お座りなさい」
大公夫人の言葉が頭の奥のほうにくぐもって聞こえる。
暗い海の底に沈むようだとリズロッテは思う。自分だけがただひとり、深海に身を放り込まれたように———。
ヒソヒソと心ない言葉が囁かれている。
深い落胆に落ちるなか、リズロッテは静かに席に着いた。