【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
後宮——白亜の美しいこの宮殿は、皇城の本宮がひと続きになっていて、正面から見て本宮のちょうど真後ろにあるため『後宮』または『後ろ宮』と呼ばれている。
外廊下に沿ってコの字で囲まれた中庭は、季節の花々が職人の手によって植え込まれ、一年を通じて華やいだ表情《かお》を見せる。
薫り立つ薔薇庭園の中央に据えられた噴水の水しぶきが七色に輝き、見る者の心を誘い和ませた。
「素敵……! こんなところでお茶が飲めるなんて。城門をくぐった時から驚きの連続でしたが、さすがは大帝国の宮殿です!」
「あら、フィフィー様。皇城は初めて? 城門からここまでだと、見えているところはほんの僅かですわ。これからもっと大きな驚きの数々が待っていますわよ!」
「間違いありませんね。どんな驚きが隠されているのか楽しみです!」
「厩の馬の数も半端ないですわよ。それに、《《におい》》もっ……」
臭いと聞いて想像を膨らませたのかフィフィーが眉を顰め、丸い目を更に丸くする。
互いに視線を合わせたリズロッテとエミリオが「ふふ」と微笑った。
後宮専属の給仕に運ばせたティーセットに手を伸ばし、三人揃ってティーカップを唇に運ぶ。このティーカップひとつを取っても、金細工や繊細な絵付けから驚くほどに高価なものだとわかる。
「それにしても! 相も変わらずジルベルト様は無表情一徹でしたわね……」
琥珀色のお茶をすすりながら、エミリオは遠い目をしている。その口ぶりには故意の皮肉が込められていた。