【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
ぱたん、と扉を閉め、一人がけの椅子に腰をかける。
手持ち無沙汰なので、最近になってラムダに教わり始めた刺繍の続きを縫いながら待つことにした。
針と糸で細かな柄をひと針ずつ縫い綴っていく刺繍は、まるで小さな額縁に絵を描くよう。
夢中で縫い続けることができ、糸と糸とが重なり合って、蝶や花の愛らしい柄が少しずつ仕上がっていくのが嬉しかった。
——綺麗に縫えたら、ジルベルトにも見てもらいたかった。
なかなか上手いじゃないか? なんて額縁を眺めて、きっと褒めてくれただろう……ふとそんな事を思ってしまい、まぼろしのような妄想を慌ててかき消す。
「お待たせいたしました…… !」
ラムダが転がり込んで来たのは、なんと約束の十一時を小一時間も過ぎた昼前だった。
「ラムダさん、平気ですか……?! 何か、他にご用事ができたのではと案じていたところです」
「いいえ。身支度に少し時間がかかりすぎただけなのです。本当に御免なさい……っ」
身支度に手間取ったと言う割に、ラムダはシンプルな細身のワンピースに髪をざっと結えただけの装いだ。