【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「気にしないでください。今日のような人手が足りない日に、私を連れ出そうとして下さったからですよね。こちらこそ御免なさい……」

 遅れたのはラムダの方なのに自分から頭を下げるマリア。どれほど謙虚なお嬢さんかしらと、ラムダは驚いてしまう。

 ——この様子では、後宮の女たちとの熾烈な戦いに苦戦しそうですわね……?

 なんて、今は余計な心配をしている場合ではない。

「人出が増えすぎる前に帝都に急ぎましょう。外に馬車を待たせてあります」

 獅子宮殿正面にある馬車受けのロータリーには、一頭だての控え目な箱型の馬車が停まっていた。
 
 ラムダに(うなが)され、マリアが馬車に乗り込もうとしたとき。

 イイ——ン! ブルルル……

 背後から馬の(いななき)が聞こえて振り返れば、立派な黒馬に跨った男が薔薇園の合間を縫って馬車に向かって来るのが見えた。
 すらりと背高い男の体躯が、頭からすっぽり被ったローブ越しにでもよくわかる。男が腰元に携えた長剣の鞘が太陽の光にきらりと輝いた。
 
「ラムダさん……あれは?」

「えっ?! ああ、《《あれ》》は……わたくしたちの『護衛』ですわっ」
「わざわざ護衛を手配くださったのですか? そうだわ……ラムダさんは良家のご令嬢ですから、護衛が必要なのですね!」

 マリアはすっかり納得して、微笑みながら馬車に乗り込む。

 ——マリア様。
 あなたはいったい、どこまで謙虚で無自覚なのですか。
 
 ラムダの嘆息は今日も止まりそうにない。



 *


 
 馬車のドアが御者の手で開かれたとき。
 マリアは瞳を輝かせ、何度もまばたきを繰り返しながら周囲を見渡した。

「素晴らしいわ……!」


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