花婿が差し替えられました
あれからクロードは、『タロ』に会うことを理由に度々サンフォース邸を訪れるようになった。
五ヶ月も寄り付かなかったくせに今さら何をという感じもするが、意外にもアリスも使用人たちもとても普通に受け入れてくれている。
もちろん最初は敷居が高かったが、一度訪ねてしまえば、あとはすんなりと通えるようになったのだ。
何気なくではあるが、最初の訪問の時にアリスが「またタロに会いに来てくださいね」と言ってくれたことが大きいと思う。

意を決して訪問したのは、もちろんタロの様子が気になったこともあるが、それより、純粋にアリスのことをもっと知りたいと思ったからだ。
今さら拗れてしまった夫婦仲を修復出来るとは思えないし、離縁を回避したいとかいうわけでもない。
だがせめて、お互い敬遠したままで別れることは嫌だと思ったのだ。

初めの頃は本当にタロの様子を見るだけだったりしたが、何度か通ううち、一緒に遊んだり、アリスとお茶を共にするようになった。
相変わらず言葉数は少ないが、タロと戯れながらタロの話をする二人の時間は、思いの外和やかに流れている。

「この子、本当に賢いんですよ。どんなに好物が目の前にあっても『待て』が出来るし、私が言った物をちゃんと取って来たりするの」
タロの頭を撫でながら、アリスが自慢げに話す。
「ちゃんと躾ければ出来ることですよ。貴女の教え方がいいのでしょう。まぁ、タロが賢いことには同意しますが」
「そうでしょう?」
「タロは、貴女に拾われて本当に幸せでしたね」
「私も。タロに出会えて幸せですわ。どんなに嫌なことがあっても、タロを抱きしめてるだけで癒されるもの」
「…嫌なことがあるのですか?」
「ああ、仕事の話ですわ。働いていれば、色々ありますでしょう?」
アリスが言葉を濁したので、クロードはそれ以上聞かなかった。
仕事の話をしたって、どうせクロードにはわからない。

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