花婿が差し替えられました
(困ったわね…)
アリスはクロードの横顔を見ながら呟いた。
クロードとは離縁すると、心に決めている。
王女が隣国に輿入れする時クロードが随行するのはほぼ確定しているのだから、どのみち別れるしかない。
彼の夢が王女の護衛騎士で、その夢を後押しすると決めた時から、それは了解している事実だ。
それが、クロードの夢の邪魔をせず、女伯爵としての自分の立場も守ることだと思うから。
でも最近…。
(彼といるのが、楽しいのよね)

タロと戯れる彼が、好きなものに目を輝かせる彼が、素直に可愛いと思う。
ナルシスと決闘すると言ったりデートに誘って来たり、彼も少なからずアリスを想ってくれているのではないかと期待してしまう。

(期待って、何よね…)
アリスが自嘲気味に呟いた時、突然右肩が重くなった。
船を漕いでいたクロードが、とうとう寄りかかってきたのだ。
(もう…!デートだって言うのに…!)
アリスはクロードの顔を覗き込んで苦笑した。
こうして見るとまだあどけなく、やはり彼はまだまだ十代の若者なのだと思い知らされる。

右肩に温もりを感じながら、アリスも目を閉じた。
正直、自分自身、まだ気持ちの変化に戸惑っている。
夫なんて、家業の役に立つ家門出身で、事業に口を出さず、後継を為すために不快感のない人物なら誰でも良いと思っていた。
だから自分に恋愛は必要無いと思っていたし、敢えてそういうものからは目を背けて来た。
それなのに。
最近ちょくちょく訪問してくれる彼を、心待ちにしている自分がいた。
デートに誘われたのも嬉しくて、服を考えたりしていたら昨夜はよく眠れなかった。
それに、王女が彼を独占したがっていると聞くと、胸がチリチリと痛む。

でも、違う。これは恋ではない。
離縁前提の結婚に感傷的になっているだけ。
新婚生活の真似事に舞い上がっているだけだ。
(でも、今だけは…)
アリスは首筋に当たるクロードの髪にくすぐったさを感じながら、ぼんやりと舞台を眺めていた。
< 66 / 156 >

この作品をシェア

pagetop