その恋、まぜるなキケン
「刑事さん、本当によくもまあ連日飽きもせず俺のこと張り込みますねぇ、ご苦労様です。今日は何かお話しですか?令状もなしにいきなり来られても困りますけど」


旭の挑発的な態度にカッとなったのか、綾人は旭のネクタイを掴んで引き寄せた。


「お〜コッワ!」


「いいか、一度しか言わない。これ以上堀越(ほりこし)真紘(まひろ)には関わるな」


まさかここで、彼から彼女の名前が出るとは思わず、旭は大きく目を見開いた。


「……いくら刑事さんでも、そんなことにまで口挟まれる筋合いはねェよ」


警察だろうと、プライベートの色恋沙汰にまで踏み込まれるなんてごめんだ。


そう思いながらネクタイを掴まれた手を払うと、綾人の口から衝撃的な事実が語られた。


「彼女は俺の婚約者だ。お前が関わっていい人間じゃない。これ以上説明が必要か?」


さすがの旭も驚きのあまり言葉を失った。


一体何の因果だろう。


久しぶりに再会した元恋人が、自分のことを逮捕しようとしている刑事の婚約者だったなんて。


真紘はそんなことひと言も言っていなかったし、そもそも婚約者がいるということも聞いていない。


本来2人の道は決して交わることはないし、交わることは許されない。


そう分かっていたはずなのに——。


再会できたことについ浮かれ、旭は彼女と連絡先まで交換してしまった。


しかし、綾人のおかげで旭はすっかり目が覚めた。


もう懐かしいあの頃には戻れないのだ。


押し黙ってしまった旭に、綾人はそれ以上何も言わずに去って行く。


旭が壁にもたれかかって空を見上げる。


そこには、嫌になるほど澄み切った青空が広がっていた。
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