その恋、まぜるなキケン

長恋

ある日、旭は本家で若頭代行である(あきら)を乗せてから、杉本家の別宅まで車を走らせていた。


「お前最近女ができたって?」


普段から必要最低限の、それも仕事に関する話しかしない2人の間にこんな話題が持ち上がることは珍しい。


旭は晃から自分の話を振られたことに嫌な予感がした。


フロントミラーで後ろに座る彼を見てから、こちらの焦りに勘付かれないように答えた。


「……俺だって女抱きたい時くらいあります」


「そりゃあ俄然興味が湧くなァ?あれだけ頑なに女を避けてたお前が遂に……だもんな。今度会わせてくれよ」


杉本組に限らず、ヤクザは女癖の悪い人間が多い。


結婚していても愛人が何人もいる者がほとんどで、家族もそれを黙認している。


その中で、組に入った時から旭は1人も女を作らない変わったやつとして認識されていた。


だからこうして興味を持たれているのだ。


「勘弁してくださいよ。代行に会わせるほどの女じゃないですから」


晃は何かとんでもないことを企んでいるような笑みを浮かべていて、旭はゴクリと唾を飲み込む。


目的地で晃を降ろしてから、旭は急いで真紘にメッセージを入れた。


確か今日は夜勤明けと言っていたからもうすぐ病院を出るはずだった。


もう真紘のことを特定されていてもおかしくはない。


『仕事終わった?迎えに行く』


旭は午後のひと仕事までは今のところ空いている。


しかしそれまでに彼女から連絡が来ることはなかった。


『おかけになった電話は現在電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためかかりません』


電話をしても繋がらない。


以前万が一のために入れてもらった位置情報アプリも、スマホの電源が入っていなければ意味がなかった。


さっきの晃の意味ありげな発言も気になっていて、真紘がまた何かに巻き込まれているのではないかと不安になる。


結局夕方になっても真紘からは音沙汰なしだった。
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