新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

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 混戦中につき、地上戦を選んだテオドールがグリフォンから飛び降りて、敵側の背後へと着地する。地面に足が付く直前に詠唱を終えていた、雷撃魔法を繰り出し、敵の不意を突いた。

 単身敵陣に降りたったテオドールに、武器を構えた賊達が襲いかかる。しかし、既に次の詠唱を紡いだテオドールが手をかざすと、敵の足元から天に向かって火柱が巻き起こった。辺りは燃え盛る炎の爆ぜる音と、地獄のような悲痛な叫びが響き渡った。


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 金色の髪を靡かせながら走るレティシアは、後方を確認すべく振り返ると、遠目から分かる程の巨大な炎が巻き起こっていた。

「テオドール!?森で何て魔法使ってるのよ!?」

 慌てるレティシア……に扮したシルヴィアが、思わず声を荒げた。
 深窓の令嬢であるレティシアが、ヒールを履いて森を爆走なんて出来るはずがない。影武者として、髪と瞳の色を魔法で変えたシルヴィアが、レティシアとして馬車に乗っていた。丁度この地点での敵の襲撃を掴んでいた、グランヴェール側の作戦だった。
 ちなみに本物のレティシアは、未だフレジアの王都を出ていない。


 狼狽し、立ち止まったシルヴィアの頭の中に、落ち着きのある美声が響く。

『案ずるな。あれは火系魔法ではなく、幻影魔法だ』

 なるほど、幻影ならば森が燃える心配はない。精々目くらましとして、敵の目を欺き戦意を喪失させた瞬間、一気に叩くのだろう。だが味方である、こちらの心臓にも悪かった。

 ほっとしてシルヴィアは再び森の中を進み始める。
 踵の高い靴でここまで走れたのは、ルクセイア家の執事、トレースの鬼レッスンの成果でもあるだろう。そう思うと、あの辛かった稽古の日々も感慨深いものがある。
 普段なら浮遊魔法で楽々と飛ぶ事が出来るが、今の自分はレティシア嬢なので、当然飛ぶわけにはいかない。

 歩き始めて少しすると、魔力の気配がした方向へとシルヴィアは魔法を放つ。
 短い呻きの直後に、ドサリと地面に倒れる音がした。

「やっぱり、森にも潜んでいたわね」

『そいつが最後だ。他の潜んでいた魔術師は既に眠らせておいたぞ』

「ありがとうジーク!」

 今は姿を現していない精霊のジーク。今日は馬車が襲われる随分前から、彼が見守ってくれていた事を、契約者であるシルヴィアは感じていた。シルヴィアの中で、ジークの存在の大きさは、言葉では言い表す事が出来ない程。

『シルヴィア、馬車の方角から誰か来る』

 ジークに言われて振り向いた視線の先から、こちらに向かってきたのは、同行していたグランヴェールの近衛騎士の一人。逃げ出したシルヴィアを追って、迎えに森に入った騎士だった。

「レティシア様!ご無事で良かった……」
「ごめんなさい、わたくしとても怖くって……」

 彼がどの程度レティシアの顔を把握しているのかは分からないが、念のため俯き気味で発した。髪と瞳の色を似せる事が出来ても、顔はシルヴィアのままなのだから。

「レティシア様、もう安心……とまでは言い難い状況ではありますが、今は戦いが落ち着くまで、ここで身を潜めておく方が良さそうですね」
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