新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

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「団長」

 近衛騎士の一人が、アレクセルに何かを報告しに来たようだ。シルヴィアもそちらに視線を向けると、ある事に気付く。

(この方は……さっきまでこの場に居なかった方だわ……)

 シルヴィアが黒髪の近衛騎士に襲われた際、矢が放たれた先にはアレクセルを始めとする、数名の近衛騎士がいた事を確認している。
 その時には、今アレクセルに話しかけている騎士は、見かけなかった筈だが。

 盗み聞きにならない程度に視線を向け、アレクセルがシルヴィアの方を向き直す前に、再び顔を背けた。勿論顔バレの危険を避けるためである。

「レティシア嬢」
「はい」
「どうやら馬車を襲った輩達が一掃されたようです」
「まぁっ、良かったですわ。これもグランヴェールの騎士様達のお陰ですわね」

 どうやら騎士の報告は、戦闘が終結したとの知らせだったようだ。
 アレクセルが騎士団長を務める、王太子付きの近衛騎士団は、少し前まで二手に別れていた。それもフレリアの王都とグランヴェールの王都という隣国ではあるが、国境を跨いでる。にも関わらず、二手に別れていた部隊は、作戦に合流し見事に任務を遂行した。

 激戦が行われていた、馬車付近で戦っていたフレリアから進行していた仲間と、グランヴェールから国境を越えてこの森に回り込んだアレクセル。

(戦は情報戦と言うけれど、こんなにも細かに連絡し合えるものなのね……)

 耳打ちしていた彼が、かなり優秀な連絡係なのか、王太子の近衛騎士が連絡戦を得意とするのか。

 シルヴィアが思案する中「それだけではありません」と、言葉を続けるアレクセル。そんな彼の声にシルヴィアは耳を傾けた。


「グランヴェール側の宮廷魔術師達も、今回の作戦に加勢して下さいました」

(ふぁっ!!?心臓飛び出るかと思った!!)

 宮廷魔術師という単語に、思わず過剰反応してしまいそうになった。他の事を考えている最中だったため、気を取られて完全に油断していた分、一気に心拍が上がった気がする。
 ドクドクと過剰な音を立てる心臓を、手で押さえたくて堪らない。だが悟られてはいけないから、我慢するしかなく、比例して冷や汗が滝のように背中をつたう。

「そ、そうなんですのね。グランヴェールの方々は、本当頼もしい方々ばかりですわオホホホホホ」

 段々レティシアから、方向性がズレていっているような気がするが、今は取り繕う事に必死だった。

「はい。敵方も魔術師や傭兵なども混ざっていたようですが、我々グランヴェール側はほとんどの者が軽症で済んでいるようです」

「それは、本当に良かったですわ」

 シルヴィアは心から安堵し、顔を綻ばせた。
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