画面越しに見ていたアイドルの勇人くんが、私の隣の席に!?
大好きです!あなたのことが
○自宅(自室)

沙羅「はぁ〜、疲れた〜。明日は休みか。何しようかな」

 今日は、色々なことがあり過ぎて精神的に疲れてしまった。主に、彼が原因なのだけれども。
 ベッドの上に仰向けで寝転がりながら、彼からメッセージが届くのを待つ。
 暇だったので、彼とのトークを見返す。

勇人『あのさ、明日公園でピクニックでもしない?』

 突如画面の上部に表示される彼からのメッセージ。当然、瞬時に既読をつけてしまい焦る私。
 急いで彼とのトーク画面を閉じる。

沙羅「ああああぁぁぁぁ!すぐに既読つけちゃったよ〜。絶対にトーク見返してたってバレるじゃん」

 時間を空けて返信できるわけもなく、もう1度彼とのトーク画面を開く。
 瞬時に既読をつけてしまって、メッセージを見ていなかったが、よく見てみたらなかなかすごいことが書かれている。

沙羅「えぇぇぇぇぇ。勇人くんと遊ぶ・・・そんなことがあっていいの〜!」

 あまりの嬉しさに、『ぜひ』の二文字をすぐに送信する。
 興奮が収まらず、ベッドの上で足をバタつかせてしまう。その度にギシギシと軋むベッドの音。

勇人『オッケー!じゃあ、明日10時に駅前集合で』
沙羅『分かった!また明日ね』

 彼から送られてきたパンダのおやすみスタンプで、トークに一区切りをつける。
 
沙羅「明日何着て行こう〜。迷うよ〜」

 ベッドから飛び降りてクローゼットを物色する。この時間さえ楽しいと感じてしまう。
  
沙羅「今日は寝るの遅くなるな」

 明日何を着るか迷っている私のことなどお構いなしに、時間だけは止まることなく過ぎ去っていった。
 
○中央大空公園

 約束通り、駅前で合流をした私たち。駅前で合流したのはいいが、思っていた通り私服でも彼が纏うオーラは消せてはいなかった。
 話しかけてくる人はそこまでいなかったが、口々に『あれ、花見勇人じゃない?』とコソコソ話しているのは聞こえてきた。
 隣を歩いている彼は全く気にもしていなかったが。
 
勇人「沙羅の今日の服装かわいいな!」
沙羅「そ、そんなことないよ。は、勇人くんこそかっこいい・・・です」

 昨日寝る前何時間もかけて選んだ服装。真っ白なスニーカーに、黒のタイトスカート、ちょっと色気を出すために白のオフショルダーと、極めてシンプルかつガーリー的な雰囲気。
 彼はというと、黒のスキニーパンツに白のTシャツ一枚とカジュアルな服装ではあるが、彼が着ることで一段とかっこよさに磨きがかかっているように見える。
 どこにでもいるような服装なのに、彼が着ると全く別物に見えてしまうのはなぜだろうか。
 唯一同じ点は、2人とも白のスニーカーというところ。

勇人「あ、ありがと・・・それにしても晴れてよかったな」
沙羅「そうだね、まさにピクニック日和ってやつだね」
勇人「今日は、俺に付き合ってくれてありがとうな」
沙羅「こっちこそ、誘ってくれて嬉しかった!」
勇人「なんか、沙羅明るくなったよな。初めて会った時は、もう少し大人しい感じだったのに」
沙羅「そうかな〜? 気のせいじゃない?」

沙羅(そうだよ!全部君のおかげなんだよ。君が私を変えてくれたの。君が私に勇気を与えてくれたの。全部全部勇人くんがいたから今の私があるんだよ)

 言葉に出すには恥ずかしすぎるので、胸の内に秘めておく。いつか、彼に伝えられる日が来ることを願って。
 私が持ってきたレジャーシートを緑あふれる芝生の上に、そっと風を纏いながら静かに被せる。
 
勇人「意外と小さいな」
沙羅「ごめんね、私が小学生ぐらいの時に使ってたレジャーシートだから・・・」
勇人「いや、むしろありがとうだよ」
沙羅「どうしてありがとうなの?」
勇人「そ、それはいいよ! 気にしないで!」

 狭いあまり私と彼の肩が軽く触れ合う。彼の呼吸音までが鮮明に聴こえてくる。
 ということは、私のドキドキしている心臓の音も彼には筒抜けなのだろうか。それは、恥ずかしい。

沙羅「そろそろ、お昼ご飯にしようか。私作ってきたから、食べてほしいな」
勇人「え、マジで! 沙羅の手作り!? 嬉しすぎるんだけど!」
沙羅「そんなに喜ばなくても」
勇人「無理だろ、好きな人の手作りなんて嬉しいに決まってるだろ!」
沙羅「・・・え? 今なんて言った?」
勇人「ん? 好きな・・・あっ!ご、ごめん今のは聞かなかったことにして・・・」

沙羅(勇人くんの好きな人は、私なの・・・嬉しい・・・嬉しいけど、自信がない)
 
沙羅「勇人くん・・・」
勇人「ん?」

 うっかり口を滑らしたことが恥ずかしかったのか、彼の頬は赤く染まっている。
 
沙羅「私のどこを好きになったの?」
勇人「え、今それ聞くの?」
沙羅「うん。教えてほしい。だって、私と勇人くんじゃ絶対に釣り合わないから・・・君はアイドルで私は暗い一般人だから」
勇人「なぁ、沙羅」
沙羅「ん?」
勇人「人を好きになるのに理由は必要か?」
沙羅「え?」
勇人「俺は、なんで沙羅を好きになったかわからない。気づいていたら、沙羅のことをずっと目で追ってた。好きになった理由はなくても、俺の沙羅に対する想いは本物だよ」
沙羅「勇人くん・・・」
勇人「今すぐに返事をしなくていいよ。それまで俺は、君のことを待ち続けるから・・・」
沙羅「どうしてそんなに私のことを好きでいてくれるの・・・」

 この言葉を待っていたかのように、私たちの真上で輝いている太陽にも負けない笑顔を見せる彼。

勇人「沙羅が俺の初恋の相手だから」
沙羅「え、初恋・・・」
勇人「そうだよ。俺、今まで恋したことがなかったから。ずっと小さい頃から仕事ばかりで、恋愛なんてする暇がなかったんだよ」
沙羅「勇人くんの初恋が私・・・」

 思ってもいなかった彼の言葉に、戸惑ってしまう。今から昼食を取ろうと思っていたが、このままでは食べ物が喉を通らないだろう。
 むしろ、喉から声も出てこない状況。

勇人「だから、考えてほしい。ってごめんな。こんな雰囲気にしちゃって。無理なら今すぐ断ってくれてもいいよ」

 普段から自信に満ち溢れている彼の顔が曇り始める。今までこんな表情をする彼を見たことがない。
 不安そうに揺れる彼の瞳に、私はどんなふうに映っているのだろうか。

沙羅(告白するのが、どんなに大変かは私にはわからない。でも、勇気を振り絞って伝えてくれた彼の気持ちに私は嘘をつきたくない)

 公園には楽しげな声が響き渡っている。子供たちが1つのサッカーボールを目を輝かせながら夢中で追いかけている。
 颯爽と生い茂る芝の上を走っていく姿が、煌めいていて美しい。

沙羅「勇人くん!」

 芯のある突き刺すような声が出たことに自分自身でも驚いてしまう。

勇人「はい」
沙羅「私、私も勇人くんのことが好きです。アイドルの花見勇人じゃなくて、1人の男の子として私はあなたが好き。なんなら、私も初恋はあなたです。もし、そのこんな私でよければ・・・」

 話している間に唇に彼の人差し指が当てられる。長くすらっと伸びた綺麗な指。

勇人「それは俺から言わせてほしい。それと、『こんな私』なんて言わないで。俺は沙羅だから好きになったんだから。他の誰かじゃダメなんだよ」
沙羅「うん」

 彼の言葉に涙が溢れてしまいそうになる。否定し続けてきた私を肯定してくれる私の大好きな人。

勇人「如月沙羅さん」
沙羅「はい」
勇人「俺と付き合ってください!」
沙羅「はい!」

 涙を浮かべる私と、ホッとしたのか和やかな表情の彼。その様子が面白くて、ついつい笑ってしまう。
 
勇人「よかった〜。これからよろしくお願いします!」
沙羅「こちらこそ、よろしくお願いします」

 "グゥ〜"
 一気に緊張感がほぐれた為か、2人してお腹が鳴ってしまう。
 恥ずかしいはずが、今だけは面白おかしく感じられた。

勇人「じゃあ、食べよっか!」
沙羅「そうだね。たくさん作ってきたからたくさん食べてね」
勇人「おう! 沙羅の手作りなら全部食べるに決まってんだろ!」

 温かい風が私たちの笑い声と共に、葉を乗せながら宙へと飛んでゆく。

沙羅(そうだよね、ここからがスタートなんだよね。どうか、彼とこれからもこの先もずっと隣で笑い合っていられますように)

 その想いを胸に馳せ、彼と隣同士で並んで歩き始める1日目がスタートした。
 
沙羅「大好きだよ勇人くん!」

 私の声が公園にいた鳥たちを一斉に羽ばたかせる。その様子を見守る私たちの背中は、まだまだ青く、芽吹いたばかりの若葉のようだった。
 

 






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