真実の愛は嘘で守って・・・。
それから何日も考えた結果、楓だけなら私の力で逃がしてやれるという結論に至った。

そして、今日はそれを楓に伝えるため、1日の仕事を終え出て行こうとする彼を引き止める。

「どうした?」

「あのさ、私考えたんだけど、楓を人間の世界に帰してあげられるかも」

「は?」

突然の提案に理解が追い付いていない楓を置いて、精一杯明るく笑顔で話を進める。

「琉偉に聞いたんだけど、碧色の力って、他の人を操ったり言うこと聞かせたりできるんだって。
だから、それを使えば楓一人位なら逃がしてあげれるかなって。どう?」

「どうって。従者はどうすんだよ。血だって俺の以外美味しくないんだろ?」

「従者はやっぱ人間は嫌で変えたってなれば、まぁそんな誰も怪しいとは思わないだろうし、血も別に美味しくないだけで飲めるから大丈夫」

「・・・優李はそれでいいんだ?」

「うん!」

「・・・ちょっと、考える」

「分かった。引き止めてごめんね。おやすみ」

これでいい。

人間の世界でなら、きっと楓は幸せになれる。

私とじゃ絶対、手に入らない幸せだ。

楓、かっこいいし、従者やってたから何でもできるし、結構モテるだろうな。

可愛くて優しい人間の女の子と恋をして、結婚して家族になって、そうやって幸せになった楓と、いつか会えるかな。

それとも、もう一生会えないかな。

それなら1回くらい、口実なんかなしで楓とキスしてみたかったな。

1回くらい、愛してるって本当の気持ち伝えてみたかったな。

「あぁ、もう。好きすぎて無理だ・・・」

私の幸せには楓しかいないのに、楓の幸せの邪魔にしか私はなれない。

それがすごく悲しくて、堪えていた涙が一気に溢れ出す。

「うぅっ・・・楓」

こうやって名前を呼んでも、もう来てくれなくなる。

優李ってあの優しい声で呼んでもらえなくなる。

「いやだよっ楓・・・行か、ないで」

「優李」

後ろから抱きしめられ、誰にも届かないはずの弱々しい本音ごと包み込まれる。

「楓?なん、で・・・」

「ずっと側にいる」

「えっ・・・」

「どこにも行かない。俺は優李のずっと側にいる」

どうしよう、私が行かないでなんて言ってしまったから。

「ダ、ダメだよ」

「なんで?」

「だって、それじゃ楓、幸せになれないよ・・・」

私の我が儘でこれ以上、引き止めちゃいけない。
もう、解放してあげないと。

「だから楓は・・・」

「俺は!俺にとっての幸せは、優李の側にいることだよ。
だから、優李。俺から幸せ奪わないで」

本当に?ほんとにそれが楓の幸せ?

「私の側にいたら、きっと苦しい思いいっぱいするんだよ」

「うん、それでいい」

「よくないよっ。そんなのいいわけない・・・」

楓がどれだけ私を想ってくれていても、私がどれだけ楓を愛していても、私は楓のものになれない。
楓の心も体も満たしてあげられない。

「いいんだよ。俺はそれでも優李の側にいたい」

私を抱きしめる力が強まる。

馬鹿な楓。私は楓に明るい未来を何一つあげられないのに。

「ほんとにいいの?もう、逃がしてあげられないよ?」

「俺の居場所は一生、優李の側だけだから」

いつも以上に優しい声で、楓は甘く囁いた。

楓がそう言ってくれるなら、私といることを望んでくれるなら、どれだけ暗い未来でもずっと一緒にいたい。
< 21 / 29 >

この作品をシェア

pagetop