真実の愛は嘘で守って・・・。

【止められない想い】Side楓

ブツリッ

「っ・・・」

くちゅっ、ゴクッゴクッ。

首筋に吸い付いて浅ましく血を貪る姿は、他の人間が見たら、吸血鬼と呼ばれるとおり、まさしく鬼に見えるだろう。

だけど、俺にはその姿さえも愛おしくて可愛くて仕方がない。

ほんと、美味しそうに飲むなぁ。

人間の俺には血の美味しさなんて分からないけど、もし自分がヴァンパイアだったら、きっと優李の血は他の何よりも美味しく感じただろうな。

そんな考えが頭に浮かんだせいで、目の前にある白く細い首筋がいつも以上に魅力的に思えて、ついその首筋を食んでしまった。

「ひゃっ」

突然のことに、優李は先程まで夢中で吸い付いていた俺の首から顔を離す。

俺に向けられた瞳は驚きと恥ずかしさで少し潤み、口元からは血が垂れていた。

あぁ、これヤバいな・・・。

「なっ、何、いきな・・・」

優李が話してるのも無視して、口元に付いた血を親指で拭い、その血を自分で舐めとる。

「やっぱ、不味い」

それを聞いて動かなくなっていた優李は、ハッとしたように口を開く。

「あ、当たり前でしょ!楓は人間なんだから」

「うん。でも、もしヴァンパイアだったら優李の血はすごく美味しいだろうなと思って」

「へっ?」

「そしたら、優李の首に吸い付きたくなった」

「な、何言って・・・ひゃっ!」

俺の唇が優李の首筋に触れて、可愛い声と共にビクッ体を震わせる。

可愛い・・・。

実際に血を吸う訳じゃないし、なんていう言い訳を自分にしながら、唇で優李の首筋をなぞる。

「楓、ちょっ、んっ・・・」

優李のいじらしい反応が、どんどん俺の理性を破壊していく。

優しく唇で触れるだけにするはずだったのに、まるで本当のヴァンパイアのように舌を這わせて、白い首が赤く染まるまで強く吸い付く。

「あっ、かえ・・・で・・・」

ヤバっ、止まんない。

コンコンコン。

「はっ!・・・」

突然のノックで完全に手放していた理性を取り戻すと、目の前には赤い痣が首筋から鎖骨にかけて広がる優李の姿があった。

「ご、ごめん。俺・・・」

コンコンコン。

動揺する俺をさらにノックの音が焦らせる。

「楓、行って」

優李は俺の首に手を置いて噛み痕を癒し、俺をドアへと向かわせた。

「はい」

ドアを開けるとそこには奥様の従者が立っていた。

「優李様を奥様がお呼びです。あとで部屋に来るようにと」

「承知しました。お伝えしておきます」

「では、私はこれで。楓、人間だから反応が遅いのかもしれないけれど、次からはもっと早く出るようにしなさい」

「申し訳ございませんでした」

嫌味交じりの説教をされても、今日に関しては、俺の理性を取り戻してくれたことに感謝すべきだろう。

優李の元に戻ると、先程、俺が付けた痕は全てなくなっていて、いつもどおりの優李がいた。

ヴァンパイアに傷を治す力があってよかったと安心する一方、ほんの少しだけ残念だと思ってしまった。

「優李、さっきは・・・」

「お母様の部屋に来いって?」

「うん」

「そう。きっと、婚約の話ね」

“婚約”

その言葉がまだ少し残っていた熱を一気に冷ました。

優李の予想は当たっていて、優李の18歳の誕生日に正式に婚約を結ぶので、期限までにこの中から婚約者を選ぶようにとのことだった。

候補者5人はどこも優李の家より地位が高く、財力のある名家の子息ばかりだ。

恐らく婚約の申し込み自体はもっとあっただろうが、奥様が予め選別をして月夜野家の得になる候補者に絞ったのだろう。

とは言え、5人の中からでも選ばせてくれるだけマシかもしれない。

「気になる人いた?」

「う~ん、まだ分かんないけど、琉偉がいた」

「えっ?琉偉様?」

琉偉の奴、下心なんかありませんって感じだったのに、結局そういうことか。

まぁでも、なんにせよ俺や小夜への扱いを見れば琉偉は他と違って、人種や階級で人を判断しないいい奴なのだと思う。

「正直、琉偉以外あんま知らないし、もうすぐ夏休みだから、直接会って話とかしてから決めたいな」

「そうだな。夫婦になるわけだからそれがいいと思う」

今までだったら、きっとこんな会話はできなかっただろう。

だけどあの日、優李が俺の幸せのために俺を手放そうとしてくれて、それでも一生優李の側にいると誓ったことで、だいぶん気持ちの整理がついた気がする。

まぁ、さっきあんなことをしておいてあれなのだけど・・・。

二度とあんなマネはしないよう、これからは優李に軽々しく触れるのはやめよう。
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