ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「落ち着いたか?」


 涙が枯れたころに航平が優しく問いかけてくれた。航平のその優しい声音に、思わず懺悔するような言葉がこぼれおちた。


「……うっ……ジャンを傷つけた……絶対つらかった。時々そういう顔してた……ジャンを苦しめた……」
「じゃあ、もう探すのやめるか? 今からでも俺と付きあう?」
「っ……」


 チャコは航平のその言葉で気づかされた。自分は今逃げようとしているのではないかと。もし傷つけていたとしても、逃げるようなことはしたくない。傷つけたのなら謝るしかないのだ。それにここで諦めれば、告白してくれた航平にも申し訳が立たない。チャコは再び溢れそうになっていた涙を拭って航平に謝った。


「ごめん、航平」
「いや……わかってる……あのさ、ただつらいだけなら、もっと早くに離れてたんじゃねーの? つらくてもチャコといたかったんだろ」


 そうだったらいいなと思う。でも、はっきり頷けるだけの自信はなかった。


「はあー、あんまり言いたくはなかったけど特別に教えてやるよ。夏祭りんとき、あいつ俺のこと睨んでたんだぞ。文化祭のときもそうだった」
「え、なんで」


 二人にちゃんとした面識はないはずなのに、ジャンがそんなことをする意味がわからなかった。


「いや嫉妬だろ。俺がチャコと一緒にいるのが気に食わなかったんだよ」
「えぇ?」


 それなりに好意を持ってくれているのはチャコだってわかっていた。でも、嫉妬するほどとは思っていなかった。


「あいつがお前のこと好きなのは確かなんじゃね?」


 チャコは航平を振ったというのに、航平はチャコのことを勇気づけようとしてくれている。それがわかってチャコは胸がいっぱいになった。


「うん……航平……ありがとう。本当にありがとう。私、どうなってもジャンが好きな気持ちだけは変わらない。諦めない。絶対に見つけるる」


 航平のおかげで前向きな気持ちを取り戻せた。本当に感謝してもしきれない。航平の想いに応えられないのが心苦しくはあるが、振った以上は自分の想いを貫こうとチャコは固く決心した。
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