ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 到着したのは昼過ぎだったから、昔ここに来ていたときよりも随分と早い時間だ。だが、いつ現れるかわからないからチャコはそこでじっと待ち続けた。これまでを振り返るようにいろいろな歌を口ずさみながら待った。


 だんだんと日が落ちてくる。西日がとても眩しい。もう現れてもおかしくない時間になっているが彼はまだ姿を現さない。それでもチャコはその場を離れずに彼を待った。


「ジャン……」


 恋しくて恋しくて思わずそうこぼした。自分が発した音が消え、また静寂が訪れる。

 淋しい気持ちが湧いて、思わずため息をこぼしたその直後、チャコの鼓膜をあまり聞きなれない声が震わせた。


「チャコ」


 自分を呼ぶ声に驚き振り返る。


 そこにはずっと追い求めていた天使の微笑みがあった。


 けれど、それはすぐに見えなくなる。なぜなら、ジャンが強く強くチャコを抱きしめてきたのだから。
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