ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「嬢ちゃんは高校生か?」


 微笑みあっていれば、またおじさんから話しかけられた。


「はい! 高校二年生です。あ、安達千夜子です。皆からはチャコって呼ばれてます」
「チャコちゃんか、かわいい名前だね」
「へへっ、ありがとうございます」


 かわいいと言われればやはり嬉しくて、ついつい頬が緩む。


「おじさんは坂田一茂(さかたかずしげ)と言います。かずさん、とか、しげさんって呼ばれることが多いかな」
「じゃあ、しげさん! って呼んでいいですか?」
「いいよ。好きに呼びな」
「わーい、ありがとうございます!」


 しげさんはとても気さくで話しやすい。しげさん含めチャコはもうこの場所が好きになった。こんな素敵なところに連れてきてくれたジャンにお礼が言いたくて、笑みを浮かべたままジャンのほうを向けば、そこにはなんとも複雑な表情をしたジャンがいた。


「何だお前、そんな顔して。一丁前にヤキモチ焼いてんのか。ははっ。チャコちゃん、ぼうずが構ってほしいんだとよ」


 ジャンはしげさんをキッと睨んでみせている。


「もう、ジャン! そんな顔したら失礼だよ!」


 ジャンの表情を解そうとチャコはジャンの両頬をつまんでグイっと引っ張った。ジャンはそんなことされると思っていなかったのか、目を大きく見開いたあと、すぐにチャコの手を払って顔をそむけた。


「あっはっはっは! 傑作だな、こりゃ。ぼうず、顔が赤いぞ」


 しげさんの最後の一言はジャンの耳元で囁かれたからチャコには聞こえなかったが、その台詞と同時にジャンが顔を真っ赤にして、またしげさんを睨むのがわかった。


「またそんな顔して!」
「大丈夫だよ。チャコちゃん、おじさんはちょっと仕込みしてるから、ぼうずと楽しんでな」



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