甘い香りが繋ぐ想い
「………え?先生、今何と?」

「君は、私が探していた女性だと言ったんだ」

「ちょ、ちょっと意味が……」

「だろうな」

それまでの険しい表情が、フッと柔らかいものになった。
その表情に真夢はドキッとする。
初めて見る表情だ。

「君、名前は?」

「三雲です。三雲真夢です」

「三雲さん」

「はい」

「今から君に話をするが、少しでも否定や拒否する気持ちがあれば、この部屋からすぐに立ち去りなさい。その前に、聞くか、聞かないか、どちらか教えてくれ」

先ほどの柔らかい表情から一変し、真夢の覚悟を確認するかのような険しい表情が向けられた。

至近距離の遼河は、目の保養どころか、心臓に悪い。思わず俯いた。

これから何が語られるのだろう。
不安と期待と、緊張と、あらゆる感情が押し寄せる。遼河の顔をまともに見ることができない。けれど、この部屋から出ようとは思わなかった。いや、出たくなかった。

「君はずっと俯いているが、私が大魔王にでも見えるのか?」

「え⁉︎」

遼河の口から、冗談とも本気ともつかない言葉が出たことに驚き、思わず顔を上げた。

「なんだ?その鳩が豆鉄砲でもくらったような顔は?」

自分の顔がどんな状態なのか想像すると、恥ずかしくなり、また俯いてしまった。

「どうする?聞くのか?聞かないのか?」

遼河が心地よい低音ボイスで問いかける。

いい加減、俯いたままでは呆れられてしまうかもしれない。最悪嫌われてしまうかもしれない。そんなのは絶対に嫌だ。想いを寄せる遼河と二人きりで話ができるチャンスではないか。もうこんな機会は二度とやってこないかもしれない。真夢は心決めた。

「き、聞きたいです!」

心臓の高鳴りを抑えるように顔を上げ、気合いを入れた。遼河の目をしっかり見据え、姿勢を正す。

「先生、お話しください」

「わかった」

遼河も真夢の目をしっかりと見据え、一度目を閉じると、大きく息を吐き、腹を括ったかのようにゆっくりと目を開けた。

「おそらく君は………」

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