甘い香りが繋ぐ想い
武田家を滅ぼし、愛する松姫を失った信忠は空虚感に支配された。松姫が信忠にとってとてつもなく大きな存在だったのだと、思い知らされた。
できることなら、高遠城を抜け出し、逃げ延びていて欲しい。もしかしたら、生きているかもしれない。僅かな希望の光が信忠を照らした。
急ぎ家臣を呼び、密かに行方を探させた。
そして信忠のもとに、松姫が生きているとの知らせが入る。
高遠城から逃げ出し、金照庵に身を寄せているという。

もう離すまい

信忠は松姫に文を送った。自分の想いをしたためた長い長い文だった。

信忠は婚約が破談になった後、側室を娶ってはいたものの、正室を娶ることはなかった。松姫以外に考えられなかったからだ。

武田を滅ぼし、菩提寺に火をかけ、大勢の命を奪ってきた。恨まれていて当然だ。だが、松姫を愛する気持ちに変わりはない。
もし許されるのなら、松姫を正室として迎え入れたい。

偽りのない想いを松姫に届けた。
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