甘い香りが繋ぐ想い
松姫は、兄の仁科盛信、武田勝頼の幼い姫たち、更には、武田を離反した小山田信茂の娘までも連れ、甲斐国から武蔵国横山宿(八王子)まで逃げ延びていたようだ。
険しく厳しい道をよくぞ逃げ延びたものだと感服した。

松姫は破談後、いくつもの縁談話があったようだが、首を縦には振らなかったそうだ。

信忠は即、迎えの使者を送った。
信忠26歳、松姫22歳、恋焦がれた人にようやく会える。

会えるはずだった……


信忠は炎に包まれている。もうこれで永遠の別れだ。顔を見ることも叶わず命が終わる。

松姫にまた辛い思いをさせてしまうな……
我は姫に苦痛しか与えられないのか……

もし許されるのなら、松姫の傍で、姫を見守りながら生きていきたい。

そんな人らしい願望が死の間際に脳裏をよぎった。

「この期に及んで」

信忠はフッと笑った。

目を瞑り、刃を腹に突き刺す。
介錯された信忠から痛みは消えていった。
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