甘い香りが繋ぐ想い
・・・・・・・・・・ 信忠はゆっくりと目を開ける。

目の前には倒れた自分の姿があった。あたりを見回すと介錯をした鎌田新介の姿がない。信忠の亡骸を床下に隠せと命令したにも関わらずだ。

とにかく、首が明智軍の手に渡らぬようにしなければ。
信忠は床板を剥ぎ、自分の亡骸を床下へ隠した。

そこで信忠はおかしなことに気づく。
自分の亡骸をなぜ自分自身が隠しているのか。

信忠は自分の姿を見やる。
先程まで一緒だった。まさしく信忠を介錯した鎌田の出立だ。

なんなんだこれは!

落ちていた刀が炎によって照らされる。そこに写った姿は、まさしく鎌田新介だった。

まさか、入れ替わったのか?

状況がうまく飲み込めないまま、思考を働かせた。とにかくここに長居はできない。気づかれないよう井戸の中に身を隠した。

身を潜めながら、状況を整理する。
行き着く答えは、やはり、中身が入れ替わったということだった。

明智軍が退散すると、夜中になるのを待ち、そっと抜け出した。
人気のない雑木林まで来ると、ようやく横になることができた。
これからのことについて、あれこれと思考を巡らす。だが、答えは出なかった。

溜息をつき、夜空に広がる星を眺めた。
いったいどうなってしまうのか……
蓄積された疲労のせいか、信忠はそのまま深い眠りへと誘われていった。
< 19 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop