甘い香りが繋ぐ想い
信松尼が病に倒れた。


「親兵衛、信松尼様がお呼びじゃ、ついて参れ」
侍女が親兵衛(信忠)を連れ、床に伏せている信松尼のもとへ向かう。

「信松尼様、お連れいたしました」

「通してくれぬか?」

障子の向こうから、弱々しい声が聞こえた。

親兵衛(信忠)は、障子を開け部屋に入る侍女の後に続いた。顔を見ないように頭を下げ、距離を取り腰を下ろす。

「親兵衛と二人で話がしたい。席を外してくれぬか?」

「それは……」

「わたくしの最後の頼みじゃ」

頑なに拒んでいた侍女もしまいには折れ、席を外した。

「わたくしの傍に」

信松尼が手招きをする。

少し前に進むと、もっともっとと手招きを続け、とうとう床に伏せる信松尼のすぐ横まで近づいた。

信松尼は穏やかな表情を親兵衛(信忠)に向ける。

「ようやく、お会いできましたね」

その言葉に、親兵衛(信忠)は目を見開いた。

「信忠様でございましょう?」

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