甘い香りが繋ぐ想い
西門遼河には婚約者がいた。人生全てを婚約者に捧げているような男。
そんな男の愛する彼女は、心不全で突然この世を去った。
生きる気力を失い、自ら命を絶とうと崖から身を投げたが、幸か不幸か息絶える前に発見され、搬送されてきたというわけだ。

大学教員で、研究領域は社会心理学。自宅は都内のタワーマンション。西門遼河から聞き得た情報はたったこれだけ。

信忠にとって大学での講義など未知の世界。
退院してすぐに遼河の自宅へ向かった。聞いていたタワーマンションの一室だ。
遼河になりきるために、彼の部屋にあるものからあらゆる情報を読み取った。
几帳面な性格だったようで、講義の内容など、必要な情報は細かくファイリングされていた。
必死に頭に叩き込む。初めのうちは、遼河に成り切るためと無理やり頭に詰め込んでいたが、足を踏み入れた社会心理学というものに、いつのまにかどっぷりと浸かってしまっていた。

出来る限りの情報を叩き込み、遼河として生活していく基盤も整った。

西門遼河自身の魂は、今頃、愛する婚約者に寄り添っているのではないだろうか。
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