甘い香りが繋ぐ想い
大学に出勤し、初めて目にするものばかりで戸惑うことばかりだった。必然的に質問する回数も増える。そんな遼河に多少は疑念を抱くのではないかと思っていだが、退院したばかりだということもあり、心配されることの方が圧倒的に多かった。
皆、中身が入れ替わっているなど思いもしない。そんなことはあり得ないと、先入観に囚われているからだ。同じ状況を幾度も繰り返してきた信忠は、そのことをよくわかっていた。

ほどなくして、遼河が学生にやたらと人気があることが判明する。アプローチを受けることは日常茶飯事だ。これでは仕事に支障をきたす。
遼河本人もきっと疲弊していたのではないのだろうか。
そして、思いついた。結婚していることにしようと。

遼河の部屋には、結婚指輪が用意されていた。
彼には申し訳ないが、その指輪を借りることにした。

効果は覿面だ。

指輪をしていった初日こそ質問攻めにあったが、訊いてどうする?無愛想に返していたら、次第に話をする者もいなくなった。

そして、今に至っているというわけだ。
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