甘い香りが繋ぐ想い
「先生、私の目の前にいる西門先生は、先生の中身は、織田信忠公ということですか?」

それまで黙って聞いていた真夢が口を開いた。

「そうだ」

真夢はおもむろに携帯を取り出し、操作を始めると、遼河(信忠)の前に差し出した。

「この人物、ということですか?」

画面には【絹本著色(けんぽんちゃくしょく)織田信忠像】と記された肖像画が映し出されていた。

「あぁ、そうだ。その肖像画には色々と物申したいところもあるが」

「この画は事実ではないということですか?」

「私はもっと男前だ」

真夢は目を丸くすると、すぐにプッと吹き出した。

「笑うところではないと思うが」

「すみません、ストレートに自分のことを男前だっておっしゃるので。しかも真顔」

「もしかして、君は馬鹿にしているのか?突拍子もないことを言い出すおかしな奴だと」

「先生の方こそ、どうしてそんな風に思うんですか?私は、先生をおかしな人だなんて思いません。確かに、話してくださった内容は、突拍子もなく、信じ難いことではありますが、腑に落ちたこともあります。だから、事実だと信じます」

「腑に落ちたこと?」

「はい」

「なにが腑に落ちたんだ?」

「内緒です」

「なんだよそれ」

「先生」

「ん?」

「知らない人物になりきるって、相当大変なことだと思うのに、400年もの間ずっと繰り返して来たんでしょう?凄いとしか言いようがありません」

「凄くはない。その人の肉体を借りるんだ。しっかりと命を全うしてやりたい。それだけだ」

真夢が真剣な眼差しを向ける。
その眼差しに吸い込まれそうになりながら、遼河(信忠)も真夢を見つめ返した。
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