甘い香りが繋ぐ想い
近くにあったベンチに、瑠璃と並んで腰を下ろした。

「単刀直入に訊くが、君は、三雲真夢さんと知り合いなのか?」

「先生、何故そんなことを?」

「三雲さんのことについて知っていることがあれば教えて欲しいと思ってね」

「どうしてですか?」

瑠璃の訝しげな視線が痛い。

「それは、だな……」

どう説明するべきか言葉に詰まってしまうと、瑠璃の表情がみるみるうちに険しくなっていった。

「真夢のことを惑わすのはやめてください」

「惑わす?」

「はい」

「そうか、私は彼女を惑わしているのか……」

「先生、自分の立場をお分かりですよね?真夢をどうするおつもりですか?」

「どうするもなにも、それは彼女次第なんだが」

「は?先生がそんな無責任な人だったなんて!不倫ですよ不倫!」

「ん?ちょ、ちょっと待ってくれないか。何か誤解しているようだが」

「何が誤解ですか?」

「はっきり言うが、私は独身だ」

「独身?またふざけたことを」

「ふざけてなんかいないぞ」

「だったら、それ、それはなんなんですか?」

瑠璃の視線が遼河の左手薬指を指す。

「あっ!これか」

「あっ!これか。じゃないでしょ!」

そうだった!既婚者で通していることをすっかり忘れていた。
とりあえず、訂正しなければ!

「これはカムフラージュだ」

「カムフラージュ⁉︎」

「あぁ」

「それはいったいどういう……」

「私はにとって恋愛は不要だった。色恋よりも研究に没頭したかったんだ。自慢になってしまうが、私は結構モテてね、言い寄られることが多々あった。だが、これをはめてからはそれが全くなくなった」

「じゃあ、欺くためだったんですか?」

「そうだな」

「なんなんですか!もう!」

「すまん」

瑠璃が呆れたように息をついた。

「先生」

「なんだ?」

「真夢のこと、好きなんですか?」

ここで誤魔化しても、瑠璃には通用しないだろう。

「気になる」

「正直ですね」

「隠しても仕方ないからな」

「私と真夢は、血は繋がってはいませんし、実家が隣同士というだけですが、真夢は私の大切な妹だと思っています。姉として、真夢には絶対幸せになってもらいたい。もう、辛い思いはしてほしくありません」

「辛い思い、と言ったか?」

「はい。なので、先生には忠告の意味も兼ねてお話しします」
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