甘い香りが繋ぐ想い
研究室を出たあの日から、遼河には一度も会っていない。
会いたくて会いたくて何度も何度も研究室に足が向いたが、一度顔を見てしまうと感情が抑えられなくなり、平静を保っていられず、何もかもが中途半端になってしまうのではないかと思いとどまった。

堂々と胸を張って会える今日この日までぐっと我慢してきた。

深呼吸してドアをノックする。
「どうぞ」と返ってきた声に胸が震えた。
ドアを開けると「どうして……」と困惑した表情を向けられ、一瞬、歓迎されていないのではと不安になった。しかし、怯むことなく入ってもよろしいですかと問うと、柔らかい表情に変わり「あぁ」と低く穏やかな声で迎えてくれた。

少しだけ言葉を交わし、真夢は、新居の住所を記したメモを手渡した。

卒業式が終わったら、遼河に想いの丈をぶつけよう。
遼河は来てくれるだろうか。返事を聞くのが怖くて、笑顔だけ残し部屋を出た。
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