甘い香りが繋ぐ想い
とうとうその時はやって来た。

柔らかな春風が、庭に咲く花を優しく揺らしている。

ここのところ呼吸が苦しそうだった真夢が、この日は穏やかな表情で、ベッドに横たわったまま、窓越しに庭を眺めていた。

「真夢、苦しくないか?」

うんと、微かに頷く。

遼河(信忠)は、真夢の手を包み込むようにそっと握り、髪を撫でた。

「真夢」

「先生」

真夢が力強く握り返す。

「ん?」

「私は、先生に愛されてとても幸せでした」

「私もだ」

「私が死んで、先生の肉体が入れ替わって、他の誰かの人生を歩むことになった時、もしその時、誰かを好きになったら、迷わずその人の手を握ってください」
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