甘い香りが繋ぐ想い
「どうしてそんな悲しいことを言うんだ」

「私は、先生を独りぼっちにさせてしまうことの方が悲しいです」

「もう、私のもとへ戻って来てはくれないのか?生まれ変わって、探しに来てはくれないのか?会いに来てはくれないのか?」

「先生……」

「私は待っているよ。君が会いに来てくれるまで」

真夢の手が、遼河(信忠)の頬を優しく触れる。

「じゃあ、生まれ変わって、また会いに来ていいんですか?」

「あぁ」

「だったら私、遠慮はしません。先生に会いに来ます。甘い香りを頼りに、先生を探し出して必ず会いに来ます。それまで、寂しい想いをさせてしまうけど、待っていてもらえるんですか?」

「あぁ、もちろんだ。だが真夢、今度はもう少し早めに会いに来てくれ。400年は長すぎる」

「わかりました。約束します」ふっと微笑んだ。

真夢の手から力が抜ける。
意識も混濁し始めた。

「先生……」

掠れた声で遼河(信忠)を呼ぶ。
ほとんど声にはなっていない。

「あ…い…し…て…る…」

口の動きで読み取った。

呼吸をしていない真夢を抱きしめ、口づけを落とす。


「私も、探し出してみせる。何十年、何百年かかろうとも、必ず君を見つけだす。それまで、しばしの別れだ」

窓は閉まっているはずなのに、ふわりと柔らかい風が、二人を包んだ。

「愛しているよ、真夢」

4月16日 くしくも松姫の命日に、真夢はこの世を去った。56歳だった。
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