甘い香りが繋ぐ想い
「瑠璃ちゃん、どうしてここにいるの?」

「仕事よ仕事」

「仕事って……あっ、病院」

「担当エリアが変わったの」

「なるほど、そうだったんだ。じゃあ、またこうやって会えるの?」

「タイミングが良ければ会えるわ」

「嬉しいなぁ」

「私もよ」

瑠璃が軽くウインクする。
こういうところも様になっていてかっこいい。

瑠璃はこの大学を卒業し、大手製薬会社で働いている。
医薬情報担当者(MR)だ。
医療従事者を訪問し、医薬品の有効性や安全性といった情報の提供や収集伝達を行い、自社の医薬品を販売している。
病院を併設しているこの大学も、瑠璃が担当することになったというわけだ。

「今さ、西門先生とすれ違ったんだけど、ホント、全然変わらないね。卒業してから一度も会ってなかったけど、不老不死の薬でも飲んでんじゃないかって思っちゃう」

「不老不死って、そんなに?」

「そう。だって、私が学生の頃30代前半だとか言われてて、ということは、今40過ぎってことでしょ。どう見ても40代には見えない。逆に若返ってんじゃないのって思うわ。下手したら、私の方が先に老けちゃうかも」

「瑠璃ちゃんが老けるって想像できない」

「うふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「ねぇ、瑠璃ちゃん、西門先生って甘い香りがするよね?」

「甘い香り?」

「うん」

「そう?すぐ横を通ったけど、何も匂わなかったわよ」

「え?何も?」

「あえて言うなら無臭。私、大学の時、西門先生のゼミに所属してたけど、その時も甘い香りを感じたことはなかったと思う」

「瑠璃ちゃん、西門先生のゼミだったの⁉︎」

「そうよ」

「じゃあ、いろいろ話しをしたことがあるの?」

「いろいろっていうか、プライベートについてはほとんどないわね。奥さんのこととか、授業に関係ないことを訊くと、訊いてどうする?って、無愛想に返されるだけだったから」

「そうなんだ……」

「もしかして、西門先生のことが気になるの?」

「え⁉︎」

勘の鋭い瑠璃に質問したことを後悔した。
誤魔化そうとすればするほど挙動不審になってしまい、瑠璃から笑われた。
だが、すぐに険しい表情で真夢を見つめる。
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