甘い香りが繋ぐ想い
「真夢、西門先生は既婚者よ」

そんなことは痛いほどよくわかっている。
だから、抑えられそうにない恋心を必死に憧れにすり替えているのだ。

「うん、わかってるよ。そんな好きとか、恋愛感情どうとかではなくて、西門先生は、私の目の保養」

瑠璃の警告は、姉が妹を心配して発せられたものだということを十分承知している。なので、当たり障りのない言葉を選び、瑠璃に笑顔を向けた。

「目の保養ねぇ……確かに、それはわかる気がする」

「でしょ、凄く綺麗な顔してるし」

「そうよね、あの気怠そうな表情もなんか美しく見えてしまうし、敵だわ!世の女性の敵」

「え……」

「それより真夢、浴衣、凄く似合ってる」

「え⁉︎、あ、ありがとう。瑠璃ちゃんから言われると凄く嬉しい。頑張って自分で着たんだよ」

「そうなの⁉︎凄いじゃない!」

「テヘッ」

「懐かしいなぁ、浴衣まつり」

瑠璃は感慨深そうに目を細め、辺りを見回した。

「あっ、そうだ。真夢、寮の暮らしはどう?何か不自由ことはない?」

「うん、大丈夫。建物もボロいからかな、寮に入る人少なくて、私、今1人部屋状態なんだよ」

「そっかぁ、でも、困ったことがあったら何でも言うのよ」

「うん、ありがとう」

瑠璃が腕時計に視線を落とす。

「そろそろアポの時間だ。じゃあ、私は行くね。あ、そうだ。真夢は自分が思ってるより美人なんだから、変な男に引っかからないように気をつけなさいよ」

「え? あ、う、うん、わかった。瑠璃ちゃん、仕事頑張って」

「ありがと」

瑠璃はひらひらと手を振りながら、病院棟へとスマートに去って行った。

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