冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
最後は喧嘩したくなかったという言葉から考えると、ソリが合わなくとも憎み合っているというわけではないのだろう。
 
それでも彼女は旅立つのだ。
 
そのことに日奈子は衝撃を受けていた。
 
今まで築いてきたキャリアを捨てて、育ててもらった両親に背いても、彼女は愛おしい人と歩む道を選ぼうとしている。その強さはいったいどこからくるのだろう。

「宗一郎との熱愛疑惑を放っておいたのは、そのためなのよ。彼と付き合ってるって思ったら両親も静かにしてるでしょ? おかげで邪魔されることなく、最後の仕事を終えられそう。宗一郎とはお互いに恋愛感情はないから、安心してね」
 
そう言ってにっこりと笑う彼女に、日奈子は「え?」と声を漏らして、目をパチパチさせる。
 
話の流れからして、熱愛疑惑を否定するのはわからなくはないが、『安心して』とは……?
 
首を傾げる日奈子に、美鈴がふふふと笑い出した。

「あなた、宗一郎の彼女なんでしょう? 宗一郎から聞いたわよ。あれ? 片想いだったかしら?」

「え!」
 
その言葉に仕事中だということも忘れて日奈子は声をあげてしまう。

『彼女』『片想い』という言葉にみるみる頬が熱くなっていくのを止めることができなかった。
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