冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「え、……そうなんですか……?」
 
宗介の言葉に、日奈子は頭が真っ白になっていくのを感じていた。日奈子が思っていたのとはまったく逆の内容だったからだ。その話が本当なら……。

「で、でも母は……母は、宗一郎さまは立派な家柄のお相手と結婚するんだって言っていました。それが大奥さまの願いなのよって……」
 
ほとんど無意識のうちに日奈子は呟く。

「まぁ、万里子さんなら、お義母さまの言葉をそう捉えてもおかしくはないわね。本当にお義母さまと私たち家族によくしてくれたもの……。ひなちゃん、どうしたの? 真っ青よ」
 
敬子が眉を寄せた。

「大丈夫?」

「あ……だ、大丈夫です」
 
かろうじてそう答えるのが精一杯だった。頭が混乱して、胸がざわざわとしている。ものすごい行き違いがあったのかもしれないと知ったからだ。
 
母は恩人である富美子の願いに背きたくなかったから、日奈子を宗一郎から遠ざけたかった。

そしてわざわざ日奈子に"宗一郎を好きになってはいけない"というメッセージを遺した。日奈子はそれを忠実に守ろうとしていたのに。
 
もしその大前提となる富美子の願いが母の思い違いだったとしたら……?

「日奈子?」

怪訝な表情で覗き込む宗一郎の瞳を見つめながら、日奈子はぐるぐると考え続けていた。
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