冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「なにを言ってるんだ。いい加減にしてくれ、この話は終わりだ」
 
宗一郎がやや掠れた声で言う。冷静を装ってはいるものの、さすがに少し動揺している。

「見合いの話が終わったのなら、もう俺たちは帰る」
 
宗介が笑いながら妻を嗜めた。

「それは乱暴な話だよ、敬子。確かにひなちゃんなら、宗一郎ともうまくやっていけるだろうが、ひなちゃんの気持ちを一番に考えないと。なにを大事にするかを間違えてはいけないよ。そんなことを言ったりしたら、ひなちゃんにとってこの家の居心地が悪くなる。もう家に来てくれなくなってしまうよ」
 
その言葉に、敬子はすぐに納得した。

「それもそうね。ひなちゃん、ごめんね。今の話はなし。もう来ないなんて言わないで」
 
日奈子は慌てて首を横に振った。

「そ、そんな……! そんなこと言いません。むしろ宗くんの相手が私だなんて、私の方が申し訳ない気分ですから。大奥さまに叱られます」
 
突然の話に少しパニックになって、日奈子は思ったままを口にする。
 
敬子が首を傾げた。

「お義母さまに? どうして?」

「大奥さまは宗くんには『いい家柄のお相手と結婚してホテル九条をさらに発展させてもらいたい』って、いつもそうおっしゃっていましたよね。母も私も何度も耳にしていて……」
 
日奈子が言うと、敬子が眉を寄せた。

「いい家柄の……そんなことおっしゃっていたかしら? あなた」
 
夫に確認をする。
 
宗介が首を横に振った。

「そんなはずはないな。確かに宗一郎の結婚相手は慎重に選べと言っていた。宗一郎は、ホテル九条を背負って立つという重圧に耐え続ける立場だからな。宗一郎が本当に心許せる誰かがそばにいる方がいい、むしろ見てくれや家柄に惑わされるなと言っていたような……。まぁ俺にばあさんみたいに人を見る目はないし、宗一郎に任せようと思っているんだが」
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