冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「お支度がお済みになられました新郎さまも……」
 
その時。

「ひなちゃん!」
 
部屋のドアがバンッと開く。
 
留袖姿の敬子とモーニング姿の宗介が入ってきた。

「わぁ……! 綺麗! 可愛いわ……!」
 
敬子は着物を着ているとは思えない素早さで日奈子のところへやってきて、ソファの隣に腰を下ろしボロボロと泣きはじめた。

「本当に綺麗……。これでやっと万里子さんへの恩返しができるわね、あなた」
 
宗介も「ああ」と言って涙ぐんでいる。

「万里子さんもきっと空から見守ってくれているわよ」
 
泣きそうになるのを堪えて日奈子は頷いた。

「ありがとうございます。旦那さま、奥さま」
 
今日のこの日を迎えられたのはふたりのおかげだと心から思う。母亡き後も、日奈子の成長を見守ってくれた。
 
敬子が涙を拭いて目をパチパチさせた。

「あら、ひなちゃん。もう今日からは、奥さまはなしよ。ちゃんと、お義母さんって呼んでくれなきゃ」

「奥さま……」
 
日奈子の胸は熱くなる。天涯孤独なんて思っていた時が嘘みたいだ。

宗一郎と結婚して家族になる。それだけでも幸せなのに、一気に家族が増えるのだから。
 
でもすぐに言えるかというと別だった。

ふたりとは家族のように過ごしていても敬意を込めて接するべきとずっとおしえられてきた。

「えーと……」
 
躊躇して日奈子は一旦口籠る。恐れ多くてとてもできそうにないと思うけれど、目を輝かせて待っている敬子に、勇気を出して口を開いた。
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