冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
ランウェイを歩く仕事でも、拠点としているロサンゼルスの仕事でもないホテル九条宮古島のアンバサダーを彼女が引き受けたのは、やっぱりふたりの間にビジネス上のやり取りだけでない特別ななにかがあるからのようだ。
 
熱愛疑惑は、本当だったということだろうか。

「レセプションが終わったから、今回の件はひと段落だ。日本を立つまでの期間はここでゆっくり過ごしてくれ」

「そうさせてもらうわ」
 
親しげなふたりの会話を聞きながら日奈子は混乱していた。
 
熱愛が本当だったとしたら、あの夜の宗一郎の告白は一体なんだったのか、わからなくなったからだ。
 
まさか結婚と恋人は別ということだろうか?
 
宗一郎がそんな考え方の人ではないはずだけど……。
 
とりあえず、頭を下げて退出しようと思う。でもそこで、呼び止められた。

「あ、ちょっと待って。あなた、水を持ってきてくれないかしら。喉乾いちゃった」

「かしこまりました」
 
頷いて、一旦部屋の外のバックヤードへ行く。

美鈴が普段から愛飲しているというミネラルウォーターの瓶を手にして戻ってくると、ふたりはまだ親しげに話をしていた。

「ホテル九条のおもてなしが、どんなものか楽しみにしているわ」

「期待してくれてかまわない。だが、こっちにいる間、もう鳳家には戻らないのか?」

「そのつもりよ」
 
タイミングを見計らって、日奈子は彼女にミネラルウォーターサーの瓶を手渡した。
 
美鈴が「あら」と声を出した。

「常温なのね?」

「はい。鳳さまは、普段は冷たいお飲み物は召し上がらないと、お聞きしまして、常温を用意してあります」
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