冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
身体を冷やさないようにそうするのだと雑誌のインタビューで答えていたようで、さっき引き継いだ時に目を通した顧客情報にあったからだ。

「もちろん冷やしたものもございますが……」

「これがいいわ、ありがとう」
 
彼女は、蓋を開けてそのままごくごくと飲む。そして日奈子を見てにっこりと笑った。

「あなた、名前は?」

「鈴木と申します」

「鈴木さん、明日からもいてくださるのかしら? だと嬉しいのだけど」

「時間帯にもよりますが、待機させていただきます」

「そう、ありがとう。もう大丈夫よ。宗一郎、あなたも」
 
日奈子と宗一郎は頭を下げて部屋を出た。
 
外のコンシェルジュカウンターには、すでに別のスタッフが待機していた。遅番の日奈子はこの時間で夜勤の彼女と交代だ。
 
宗一郎が、彼女と日奈子に向かって口を開いた。

「鳳さまは日本にいる間、ここに滞在される。おそらく取材や撮影などのスケジュールがたくさん入るから出たり入ったりにはなるだろうが、いらっしゃる間はゆったり過ごしていただけるよう、気を配ってくれ」

「わかりました」

「それから、彼女が実家ではなくここに滞在するのには理由がある。家族であっても勝手に通したりはせず、必ず本人に確認すること」

「承知しました」
 
そして日奈子はそのスタッフと交代する。なんとなく、そのまま宗一郎とエレベーターに乗り込んだ。
 
勤務中とはいえふたりきりという状況に日奈子は気まずい思いになる。
 
同時に彼に対する複雑な思いが、胸の中でぐるぐる回るのを感じていた。
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