ヒーローは間違えない〜誰がために鐘は鳴るのか〜

富士山麓にオウム鳴く

翌朝···。

「起きろ、この酔っぱらい」

目覚まし代わりの挨拶は、父の暴言とゲンコツでした‥‥。

「おやじさん、地味に、いや、ガチで痛いんですけど」

「誰が親父さんだ、俺か」 

昭和のツッコミは嫌いじゃないが、朝からの拳骨は余計だと思う。

しかも、二日酔いで地味に頭が痛むのだ。

拳骨のせいか、久しぶりに会ったイケメン幼なじみに晒した昨日の失態が、悪夢のようにフラッシュバックしてきて居たたまれない気持ちに苛まれる。

「お父様、私頭の調子がいまいちですの。今日の外出は無理ではないかと…」

2匹のグレートピレニーズの子犬には会いたいが、いや、もちろん抱き締めたいが、二日酔いの鬱状態に長旅は堪える。

「大丈夫だ、ヒカル。お前の頭の調子が悪いのは昔からだ。それに二日酔いには迎え酒ならぬ迎えイケメンと言うだろう?」

はて?聞いたこともないことわざだが、貢の表情はいつになく真剣で笑える。

「おほほ、お父様も冗談をおっしゃいますのね。私本気で調子を崩しておりますのに」

「いくら面倒臭いからと言って…いい加減、異世界転生した悲劇のお嬢様ごっこはやめろ。ユウリくんが戸惑っているではないか」

父の更なる拳骨と呆れを含んだ言葉に、ヒカルはハッとした。

もしや、昨日久しぶりに再会した、あの人外イケメンが、またもこの不可侵エリアに侵入している?

昨夜のヒカルは、あの後シャワーも浴びず、化粧も落とさずにベッドに寝落ちしてしまった。

泣き上戸と化したヒカルの顔は、アイシャドウやらアイラインやらが剥がれてぐちゃぐちゃに違いない。

自宅に帰った時と変わらないことには違いないのだが、今はシラフである。

ヒカルとて、アラサーとはいえ、立派な羞恥心は持ちあわせているのだ。

「やだ、見ないで!」

「何を今さら色気づきおって。さっさと支度をせんか」

顔を毛布で覆い隠すヒカルに無情な父の声が響く。

「どんなヒカルだって僕は大歓迎だよ」

毒舌の応酬の合間に囁かれた甘いイケメンボイス。

やはり、いるのだ、とヒカルは諦めた。

「重ね重ねスミマセン。急いで準備しますので、一旦出て行ってもらっても?」

ハズカシヌ、と悶えるヒカルを置き去りにして

「慌てなくてもいいよ。ちゃんと待ってるから」

「さっさとしろ、グータラ令嬢」

相反するイケメンと中年親父の声が、ヒカルの不可侵エリアである汚部屋に響いた。




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