ヒーローは間違えない〜誰がために鐘は鳴るのか〜
「まあ、まあ。君の働きには感謝しているんだよ。見ている人は見ているさ」

そんな励まし、ご褒美にも餌にもならない。

悩みの本質を無視した労わりなんてタダの騒音でしかない。

「あの人のお陰でいったい何人の優秀なスタッフが辞めていったと思ってるんですか!私達はあの人のイライラのはけ口になるために給料をもらっているわけではありません」

「仕方ないでしょ?いまや、あの人のお姉様がこの会社の筆頭株主になってるんだから。逆らったらどうなるか···」

前社長は商才はあるが、お人好し過ぎるのが玉にきずだった。

初恋だがなんだか知らないが、経営素人の美人な老婦人に手球に取られるなど、社長としてどうなんだ。

しかも、その美人老婦人ですら、乗っ取ろうとしている会社を、無能のモラハラ野郎に任せようと考えるなんて甚だ無謀すぎるし。

もはや、こんな会社には未来も未練もない。

一刻も早く立ち去らなければ、ヒカル自身のメンタルが限界突破してしまう。

すでに、不眠や痩せ、といった身体症状が出始めている。

心と体が警鐘を鳴らし始めているのだ。

「新人の美奈ちゃんも幸穂ちゃんも、やっと仕事を覚えて希望に燃えているのに」

「···」

「そうそう、前社長も、痛みが和らいで最近は目覚めている時間が少し増えてきているようだよ」

「···」

この専務の泣き落とし攻撃も、ある意味モラハラと言えるかもしれない。

『優しいキミは見捨てるなんてことしないよね』

という、思いやり?のモラルを問うハラスメントだ。

何を聞いてもモラハラに捉えてしまいそうになる。

ヒカルの鋼のメンタルは、もはや豆腐レベルまで軟化してしまいつつあった。

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