クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
広大さんは私の両手を握り、
「桜子さんは、最近事務所を構えたけど、職員が定着しなくて、かなり大変みたいでね」
と静かに桜子さんの事を話し出した。
「大きなクライアント契約をしたばかりで、俺が事務所に帰って来たと知って、父さんに相談に来たんだ。助けて欲しいって」
桜子さん、広大さんを頼って来たんだ。

「父さんはああいう人だろ。忙しいのに引き受けて。それが昨日、ようやく終わったんだ」
深くため息をついた広大さん。
「そして、抱きつかれたんだ。合同で一緒に仕事しないかと誘われた」
私が見た時だ。その後、私は帰ったから。
「でも断ったよ。これを最後にしてくれって。抱きつかれたのは確かだ。でも、直ぐに突き放したよ。俺が抱きしめたいのは、碧だけだ」

私を引き寄せて、頬を合わせるように抱きしめた。
「誤解させて悪かった。寂しい思いもさせて。でも、信じて欲しい。俺は碧だけのものだ。俺の腕の中は、碧だけの居場所だ」
「広大さん・・・」
そして、私の肩を持ち、ゆっくり体を離すと、
「碧・・・キス、していい?」
寂しそうな目で私を見つめる。いつもなら、何も言わずにキスするのに・・・
静かに頷くと、揺れる瞳で私を見つめ、ゆっくりと顔が近づき、キスをした。
「好き過ぎて、感情が抑えられない」

激しく奪われる口づけに必死に応え、しばらくして唇が離れた。
「ずっと寂しくて、碧を抱きしめたかった。もっと素直に言葉にすれば良かった」
愛おしむように抱きしめられ、広大さんの温もりが伝わる。
寂しかった心が、広大さんの愛で埋め尽くされる。
「俺の家に帰ろうか」
私が頷くと、雲一つない空に輝く月と暗黒の海を背中に、車は動きだした。
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