秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 伯父夫婦には子どもが二人いた。僕の従兄妹になる。でも、それまで会った記憶がない。当時、大学生だったお兄さんは、海外に留学中とかで、家にいなかった。妹さんは高校生ぐらい。無口な、落ち着いた感じの、線の細い女の子だ。

 高校生であっても、僕から見たら十分に大人で、綺麗なお姉さんという印象だった。親戚だろうが従兄妹であろうが、自分の身近にそういう存在が今までいなかったから、どういう態度をしたら良いのかわからない。紹介されたとき、何を話したのか。緊張してどきどきしていたので、多分、挨拶だけだったように思う。

 無口な彼女と、もの静かな伯父夫婦、穏やかで優しい母と、いきなりそれまでの生活を離れて慣れない環境に置かれ、居心地が悪かった僕。幾つも部屋がある広い家は、誰もいないみたいに、しんとしていた。しんとして、夏なのに涼しかった。
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