秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 夏休みでも、親しかった友人たちと遠く離れた町に来てしまったので、遊ぶ相手がいない。家の外へ、どこかへ遊びに行くにしても、土地勘が無いから、どこへ行ったらよいのかわからない。それに、九月から新しい学校に転校するのが決まっていたので、何だか気持ちが落ち着かなかった。夏休みの課題やら宿題をやらなくてもよいのは嬉しかったが、それだけだ。

 遊び相手といえば…年齢が近いとはいえ、お姉さんに話しかけるのは気が引けた。彼女は、たまに庭で見かけるぐらいで、一日のほとんどを自分の部屋で過ごしていた。家の中で顔を見たことは、ほぼ無い。それが僕には不思議だった。なぜどこにも行かないのか?遊びに行かないのか?お姉さんの友人が訪ねてくることも無かった。なぜ?なぜだろう。

 僕のその疑問は、ある日、伯父から聞いた

「沙耶(さや)は、生まれつき、体が弱くてね」

 その言葉によって解消された。

 沙耶。それが彼女の名前だ。
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